背景

 今、世界中でかけがえのない貴重な文化財が、破損や風化の危機にさらされています。危機の原因は、 経年劣化はもとより観光客の増加や都市開発・環境破壊、ひいてはテロのような社会情勢の悪化など様々な要因によりますが、一刻も早い保護が求められており各地でそのための取り組みが行われています。 近年では、コンピュータビジョンをはじめとするディジタル技術を用いてこれらの文化財を記録するディジタルアーカイビングが注目され、保存・修復に役立てようという動きが進んでいます。 しかし文化財の数に対して、ディジタルアーカイブ作成のための計測にかけられる人員も機材も予算も十分ではないという問題があります。 そのため、計測にかかる時間や手間、機材の価格や人件費などのコストを減らしていくための技術開発が必要とされています。

図1.文化財の3次元ディジタルアーカイビング

目的

 ディジタルアーカイビングの技術は、主に光学センサーと3次元データ処理ソフトウェアを中心に発展してきました。本プロジェクトでは、このディジタルアーカイビング技術とロボティクスを融合し、3次元空間の高精度計測の自動化を目指していきます。

 文化財には、彫像や絵画・古文書のように移動可能な大きさのものから、大仏や建造物のようにとても大きなものまで、大小様々な種類があります。光学計測に基づくディジタルアーカイビングでは、データの欠損部分が生じることの無いように、安定した光源条件のもと計測対象である文化財をまんべんなく全方向から撮影します。文化財のおかれた計測環境は、光源や電源の整えられた屋内に限らず、天気の影響を受ける太陽光のもとで電源確保も困難な人里離れた屋外に位置し、なおかつ広範囲に広がることもしばしばあります。高さについても、人が直接進入することのできる比較的低所から、簡単にはアクセスすることのできない地上数十メートルの高所であることもあります。また電子機器にとって過酷な赤道直下の高温多湿環境にあることもあります。

 このような環境下においても、センサーを設置する適切な位置や方向を自在に定めることのできる機能を持たせることが本プロジェクトにおけるロボティクスの役割です。その実現のために必要とされる、1.過酷な使用に耐えるモータをはじめとする移動・運搬機構の基盤技術、2.非専門家にも扱いやすい操作インターフェースや最適な計測計画立案などのソフトウェア技術の開発を行っていきます。

技術課題

 たとえば、立体形状の測定に使用するレンジセンサーに絞っても、計測距離や解像度、精度に応じて多種多様なセンサーが使い分けられています。

図2.ディジタルアーカイビングに使用されるレンジセンサーの例

従来の計測方法においては、撮影したい計測対象とセンサーの特性に応じて、人が経験に基づいて撮影地点を決めて撮影し、計測結果を見て判断し次の撮影地点を決め撮影し、この作業を何度も繰り返していきます。計測を担当するオペレータには計測機と計測対象についての知識が求められますが、熟練するまで時間がかかります。センサーの特性や計測対象のメタ情報、過去の計測データを基に自動的に決められるようにしていくことが課題の一つです。

初年度の取り組み

 センサーを搭載して移動するためのローバー型移動ロボットを開発しています。日本電産により新開発された高ギア比薄型高出力DCブラシレスモータを使用して、過酷な環境下での使用に対する耐久性を持ち、なおかつ小型軽量を実現しています。ローバー一式を旅行用トランクに格納して、空輸することが可能です。

図3.開発中のローバー型ロボット


担当研究室

東京大学生産技術研究所 第3部 大石研究室

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