環境/応用音響工学のロボットへの適用

Environmental / Applied acoustic engineering to Robotic applications

 

背景

私たちは,音に囲まれて生活しています。人間にとっての音は,他者に自分の意思を伝え,他者の意思を知る“コミュニケーション”のための最も重要なツールであり,音楽芸術の対象でもあります。私たちの生活を便利に,豊かにするために欠かせない環境要因です。その一方で,人間にとって好ましくない音,すなわち“騒音”は,日ごろのイライラの原因となり,ひどいときには睡眠妨害の要因となって人々の健康に害を及ぼすこともあります。必要な音を適切に保全し,不要な騒音を適切に制御することが重要です。都市や建築物における音環境をより良い状態に保全する上で第一に必要となる正確な予測(推計)のために,コンピュータ技術とGIS等の情報を用いた音場予測技術や,新しいトランスデューサを応用した計測技術を開発し,基盤的音響実験設備を活用した人間への影響評価を行っています。

 

目的

我々人間が聞く音の「聞こえ」には,建築/都市環境的な要因が非常に大きく影響します。例えば室内では,周囲の壁,天井,床面からの音の反射によって生起される「残響」と呼ばれる現象と,外部空間や隣室等から伝わったり,自室の環境調整のための機械設備から出たりする「騒音」が非常に大きく影響します。また,戸外の外部環境では,多くの建物や道路構造物による反射,回折や,風や温度分布などの気象要因による音波の屈折といった波動的物理現象が,環境騒音のレベルに大きく影響します(図1)。したがって,私たちの生活環境周辺の音場を正しく予測するためには,音の“発生”と空間における“伝搬”の物理を正しくシミュレートすることが必要になります。

 

図1 都市/建物と音の問題

 

技術課題

音は空気中の波動ですから,空間中の全ての音の波動性を考慮して予測ができれば,それに越したことはありません。そのような計算理論は「波動音響理論(Wave acoustics theory)」と呼ばれます。波動音響理論に基づく計算は,波動方程式という微分方程式を解く問題に帰着し,有限差分法,有限要素法,境界要素法といった計算力学的手法が適用されます。他の多くの分野の計算力学的手法と同様に,音響分野のコンピュータシミュレーションもどんな問題にも適用できるというわけではなく限界があり,基本的に大規模な空間は現在の計算機技術を使っても解析不可能です(逆に小さな部屋は問題なく解析可能です)。例えば200 m×200 mの街区の計算であっても,騒音予測に必要な4 kHzの周波数帯域まで計算することは非常に困難です。そのような場合には,波動性を無視して音があたかも光のように直進する仮定を置いた「幾何音響理論(Geometrical acoustics theory)」が実用的に用いられることがあります。つまり,計算精度的には波動音響理論に基づく方法が有利(幾何音響理論に基づく方法は精度が落ちる),片や実用面では幾何音響理論に基づく方法が有利(波動音響理論に基づく方法では比上院時間がかかるか,計算不可能な場合も多い)で,計算対象とする空間規模に応じて,解析手法を取捨選択することになります。

 

図2 幾何音響理論と波動音響理論

 

都市環境騒音を精度よく予測・推計する手法として,幾何音響理論をベースにしながら回折効果や地表面効果をエネルギ的に計算するASJ RTN-Model (ASJは日本音響学会,RTNは道路交通騒音の意味)の開発研究に携わっています。計算手法の開発と同時に現場実験や縮尺模型実験を重ね,計算精度の向上に努めています。

 

図3 都市環境騒音マップの計算の一例(600 m×600 mのエリア)

 

図4 半地下構造道路における現場実験

 

図5 トンネルの縮尺模型実験

 

一方,音が人間に及ぼす心理的影響に関しては,音響研究の基幹設備である無響室,半無響室に3次元音場シミュレーション装置や低周波音発生装置を組み込み,各種主観評価実験に応用しています。

 

図6 無響室と3次元音場シミュレーション装置

 

図7 半無響室と低周波音発生装置

 

初年度の取り組み

ロボットの音声認識に対して環境(騒)音が与える影響を実験的に検討しています。現在は音声データによる基礎実験の段階ですが,今後,無響室の3次元音場シミュレーション装置によって各種音環境を再現し,その中での音声認識装置との対話によって,音声認識率に及ぼす音環境の要因(暗騒音レベル,騒音の周波数特性,時間特性)を調べていく予定です。

 

図8 無響室における実験

 

図9 現場音環境の収録装置

 

担当研究室

 

東京大学生産技術研究所 第5部 坂本研究室

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